翻訳業界の多重下請け構造

 

 

クライアントの多くは訳文の品質をチェックする手段を持たないことから、悲惨な結果を得ることが多いです(大抵の場合、クライアントはターゲット言語を話すことができない)。そのため、多くのエンドクライアントは低料金の翻訳サービスに喜び、品質を無視します。

 

本物のプロ翻訳者に直接連絡すれば、その料金の60%で良質な訳文を手に入れられることを彼らは知らないのです。別の言い方をすれば、エンドクライアントは激安の料金で騙されてボロボロの中古車を買っているのです。それよりも低料金で新車のベンツを買えるのに・・・。

 

今がエンドクライアントに直接連絡すべき時です

 

翻訳会社は競争力のある価格で翻訳サービスを提供したいだけであることを我々翻訳者やエンドクライアントは肝に銘じるべきなのです。グーグル翻訳や粗悪な機械翻訳に高い料金を支払うようなことはあってはなりません。翻訳会社のほとんどは自社で校正する能力がありません。そのことにエンドクライアントは気付くべきであり、大きな翻訳会社だからと安心してはなりません。校正を行わずに送られてきた訳文をそのままクライアントに送る翻訳業者もあります。名の知れているところです。クライアントが質の悪さに文句をいい、翻訳会社がそれを理由に翻訳者に支払わないという最悪のケースも生じます(たとえクライアントが支払っていても)。

 

訳者は翻訳会社から送られてくるスパム的なメールに頼ってはいけません

発がん遺伝子

 

 がん細胞(cancer cell)は特定の遺伝子の変異により細胞増殖の制御がはずれて無秩序に増殖するようになった異常細胞である.がん発生にかかおる遺伝子にはがん抑制遺伝子(suppressor oncogene,tumor suppressor gene)の2つに分類される.

 

 がん遺伝子とは正常の細胞では適度に発現されて正しく機能しているが,なんらかの変異原によってその遺伝子が変異すると細胞ががん化してしまうような遺伝子である.発がん性を示すがん遺伝子という概念は1970年代, RNAを遺伝↑青報として持つレトロウイルス(retrovirus)のうち,発がん性を持つRNA腫瘍ウイルスの研究の中からはじめて提唱された. RNA腫蕩ウイルスの基本型として潜伏期の長いリンパ性白血病ウイルス(LLV : lymphatic leukosis virus)があり,ゲノム上にウイルスの複製に必須な3つの遺伝子を持っている.一方,類似であるが感染後は数週間のうちに宿主にがんをつくるウイルスとして,ラウス肉腫ウイルス(RSV : Rous sarcoma virus)が知られていた. RSVとLLVのゲノムを比較したところ, RSVはもう1つ,遺伝子を持っていることが明らかにされ, srcがRSVに強い発がん性を与えていることが示された.この発見をきっかけにして,強い発がん能を持つ他のRNA腫瘍ウイルスのゲノム構造が次々に決定され,そこから新たな発がん性を示す遺伝子(がん遺伝子と総称された)が続々川司定されていった. 1980年代に入るとSrcタンパク質がチロシンキナーゼ活性を持つことが示されたのを皮切りに,他のがん遺伝子産物(タンパク質)の機能も次々に明らかにされてきた.

 

 一方,解析が進むにつれてがん遺伝子と相同な遺伝子が,魚類からヒトにいたるまでの種を超えた正常な細胞のゲノムにも存在することがわかってきた.さらに正常な細胞でもこれらのがん遺伝子は発現され,なんらかの機能を果たしていることも明らかにされてきた.そこでこれらRNA腫瘍ウイルスのがん遺伝子と細胞染色体上の相同ながん原遺伝子(protooncogene)を区別する。

肥満体質の遺伝

 

 肥満は美容の点で嫌われているだけでなく,糖尿病・心筋梗塞などの成人病の危険因子の1つであることから,スリムな体型を保つことは多くの人の関心事となっている.しかし世の中にいくら食べても太らない人や,たいして食べないのにすぐに太ってしまう人がおり,なんらかの遺伝的な体質が存在することは確かである.近年,マウスを使った実験により,肥満の体質といわれる遺伝性素因のいくつかが解明されてきた.

 

 肥満はもともとは飢えから体を守る防御機構である.今でこそ食料増産により先進国では人々は飢えの恐怖から解放されているが,人類はつい最近まで常に飢えに悩まされてきたのである.そこで,十分な食料にありついとさいには食物を過剰に摂取し,食料がしばらくは手に入らなくても生きてゆけるように脂肪として体内に蓄えたのである.飢餓に耐性となる遺伝子は淘汰に有利であった.しかし飽食の時代には肥満という厄介な間題を抱えることになってしまったのである.

 

 一般に血中の脂肪レベルがあがると脳の視床と呼ばれる器官にある摂食中枢に信号が発せられ,過剰な脂肪が体内に蓄えられるよう調整したあと食欲を停止させる.この仕組みに不均衡が生じ脂肪蓄積に傾くと肥満が起こる.栄養価の低い食品を常食している日本に比べ,乳製品や肉類など高カロリーの食事に慣れた欧米では,たとえば体重450 kg にまで太ったオビース(obese)と呼ばれる病的な肥満状態の人さえ記録されている.このような食事の節制も運動も自力で調整できなくなってゆく状態は,欧米では栄養病患の1つとして考えられて熱心な医学的研究が続けられてきた.

 

 オビースと名づけられた突然変異マウスは,遺伝的に普通のマウスの2倍以しにまで肥満するのみでなく,インスリン非依存性(II型)糖尿病を発症するなどヒトの病的肥満によく似た症状を示す.くわしい遺伝学的研究の結果,この突然変異は1つの遺伝子が先天的に欠損しているために生じていることがわかった.早速,ポジショナルクローニンブ法を用いて肥満遺伝子がクローニングされた.肥満遺伝子がコードする全長167アミノ酸のタンパク質はギリシア語の“やせている"を意味するという言葉を語源としてレプチン(leptin)と名づけられた.脂肪を蓄える肥満組織に多く発現されているレプチンは,分子全体が親水性でアミノ末端側には分泌性タンパク質特有のシグナル配列を持つ.詳細な解析によりレプチンは体脂肪量の調節にはたらくべく,満腹したというシグナルを伝達する役割を持っており,レプチンの欠損がオビースマウスの肥満の主因であることが明らかにされた.実際,遺伝子組換え体レプチンを1対の染色体上のレプチン遺伝子がともに変異しているマウス,すなわちホモ接合のり加y突然変異マウス(.ob/obと表記する)に皮下注射すると,体重減少・過食症状の改善・脂肪量の低下が観察された.また,レプチンをマウスの脳内血管に注入すると,1時間後には食物摂取を停止させるという食欲低下作用も報告された.これらの結果により,レプチンは服用するだけで肥満を解消する夢の“やせ薬"として脚光を浴びるようになった.

 

 一種のペプチドホルモンであるレプチンには必ず受容体が存在するはずで,その異常も肥満にかかかる可能性が高い.そう考えて,早速レプチン受容体遺伝子をクローニングしたブルーフがある.一方,突然変異マウス(db/db)も遺伝的な肥満マウスである.しかしマウスではレプチンの異常はまったく見いだされなかった.それどころかレプチンを投与しても体重減少には効果がない,すなわち,レプチンに対して不感受性になっていた.この結果はレプチン受容体が異常になっていることを示唆している.実際,ポジショナルクローニンブ法により単離された遺伝子は,すでに単離されていたレプチン受容体遺伝子と一致した.ただし, db/dbマウスではレプチン受容体の細胞内領域部分が欠損しているため,レプチンから発せられたシグナル伝達の仲介ができずに肥満を防止できなくなっていたのである.肥満の人の多くはレプチン量が異常に高いことが明らかにされた.つまり肥満はレプチン不足が原因でなく,レプチンがさがない,レプチン受容体側の異常であることが示唆される.しかしレプチンにかかかる来知の因子の貢献も否定できない.もっと研究が進めばレプチン関連因子を操作することで肥満の治療法も確立されてゆくであろう.

アルツハイマー病

 

 老年性痴呆症の患者の数は高齢化社会の到来とともに着実に増加しているが,そのうちの何割かは1907年にアルツハイマー(A. Alzheimer)によってはじめて報告されたアルツハイマー病(AD : Alzheime内disease)に罹患している. ADの特徴は脳の中に神経原線維と老人斑(senile plaque)が形成され,脳血管がアミロイド変性を起こすことである.ここでアミロイドとは各種臓器に沈着する線維状物質の総称で主成分はタンパク質からなり,コンゴーレッドで桃色に染色され,偏光顕微鏡下では緑色偏光が観察される物質である.アミロイドの沈着により神経細胞は変性し,その結果,患者の脳細胞は徐々に死滅し,脳は萎縮して痴呆の病状が進行してゆく.

 

 一般のADがどの程度遺伝性であるかどうかはいまだに確定していない.しかしながら,明らかに単一の遺伝子変異が原因で遺伝性に発症しているいくつかの家系が存在することも事実である.実際,ポジショナルクローニング法によってこれまでに別々の家系から以下に列挙するような4つの原因遺伝子が単離・解析されてきた.

 

 アミロイド前駆体タンパク質(APP : amyloid precursor protein)は老人斑の中心部に沈着しているアミロイドから抽出されたβタンパク質(別名はA4ペプチド)の前駆体(695アミノ酸)であり,細胞膜を1回貫通する受容体様の構造をしている. APP遺伝子に変異が起きたりAPP分解酵素の制御に異変が起きると異常なAPP切断が起こって不溶性のβタンパク質が切り出され,脳組織にアミロイドとして沈着すると考えられている.

 

 アポリポタンパク質E(アポE)は,体によいタイプのコレステロールとして知られる高比重リポタンパク質(IIDL)の一成分であり,血液中の脂肪輸送タンパク質の一種である.神経細胞のうち細く延びた軸索を補強する役割も持つ.65歳以降に遺伝的にADを発症する家族性AD症の原因遺伝子をポジショナルクローニンブにより探索した結果,アポEの変異が原因であることがわかってきた.アポEにはE 2, E 3, E 4という3つのタイプが存在する.われわれはこれらのうち2つを遺伝的に引き継いでいる.このうち両親からともにE4を受け継いでE 4/E 4 の組み合わせを持った人はADを発症しやすいという.実際,家族性AD症の80%以上の患者や,家族性でない孤発例の患者の約半数が少なくとも1個のE4を受け継いでいた.一般にE3はタウタンパク質を軸索にくっつけて構造を補強できるがE4にはその作用がなく,タウタンパク質で補強されていない軸索は壊れやすい.さらに遊離したタウタンパク質は絡み合って脳組織を変化させるという報告もある.E4はアミロイドタンパク質を凝集させる性質もあるという.しかしE4を2つ持っていてもADを発症しない人もいるため,E4はAD発症の危険因子ではあるが確定診断の証拠となるほどではないということに落ちついている.ちなみにE2は珍しく,E4を持っている人でももう一方がE2であれば危険率は下がるという.

 

 プリセニリン1とプリセニリン2は,中高年から発症する2つの別々の早期発症型家族性AD家系からクローニングされた類似のAD原因遺伝子である.プリセニリン1,プリセニリン2タンパク質はともに神経伝達物質受容体(7回膜貫通型)に類似した構造をしており,脳内では神経細胞に発現されている.ある家系の患者では遺伝子のスプライシングの変異が原因で欠損プリセニリン1を産生している.その他の家系では点変異が原因のアミノ酸置換が起きていた.大切なことはプリセニリン1の変異がβタンパク質(Aβ42)の産生・沈着増加の原因となっていることで,“プリセニリン1の変異→Aβ42の沈着→老人斑の形成→神経細胞の変性・死滅→AD発症"という大まかなAD発症のプロセスの1つが全貌を現しかことにある.これが実際に患者の脳の中で起きているか否かは未定であるが,ADの病因解明に向けて大きな一歩が踏み出されたことを多くの研究者が感じ,研究が佳境に入っているところである.

多因子性遺伝性疾患と糖尿病

 

 1つの遺伝子の変異によって引き起こされるタイプの遺伝性病患はポジショナルクローニング法の進展によって原因は労力さえかければ解明できるまでになってきた.しかし,体質としての遺伝性素因が存在することの予想はつくものの,1つの遺伝子変異では説明かつかない遺伝パターンを示す病患も数多くある.それらにおいてはいくつかの遺伝子の変異が原因となっているばかりでなく,環境因子の影響も大きいため,その研究はいまだ手探りの状態である.高血圧症(hypertension)や糖尿病(diabetes)など,いわゆる成人病のなかにはそのような多因子性の遺伝匪病患であるものが多い.

 

 昔は食満ちたりた金持ちの病であった糖尿病も,飽食の時代を迎えた現在,数百万人(成人の20 人に工人)もの患者がいるほどのありふれた国民病となってしまった.糖尿病は血中のグルコース(ブドウ糖)の濃度(血糖値)が空腹時でも140mg/d I以上の高い値を示す病患である.自覚症状が少ないため,この状態を放置しておくと病状はゆっくりと進行して,やがては腎臓病,下肢の壊死,網膜症による視力の喪失など重篤な合併症が現れてくる.健康な人では膵臓から分泌されるインスリン(insulin)と呼ばれるペプチドホルモンの作用によって血糖値が低下されることから,糖尿病ではなんらかの原因でインスリンのはたらきが阻害されている状態であるといえる.糖尿病にはインスリン依存型(I型)糖尿病(IDDM)とインスリン非依存型(II型)糖尿病(NIDDM)の2つが知られている.

 

 IDDMは発症のピークが12寇と若い自己免疫疾患で,インスリンを産生・分泌する膵臓のラングルハンス島β細胞に対する抗体を自身がつくって攻撃し,インスリン分泌を阻害するために起こる糖尿病(インスリン欠損症)である.複数の遺伝子変異が発症にかかわっているとされるが詳細は不明である.インスリンを外部から補充しないとただちに生命に危険を及ぼすため,小児のころから常にインスリン注射をする必要かおる.

 

 NIDDMは大多数の成人糖尿病患者が分類されるタイプの糖尿病で,なぜ血糖値が上昇するのか原因がわかっていない.患者ではインスリンの分泌が徐々に悪くなったり,インスリンは分泌されているのであるが標的臓器においてインスリンに対する感受歐が次第に低下していくことなどで症状が現れてくる.インスリンにだけ結合してシグナルを伝達する細胞膜表面に存在するインスリン受容体に欠陥力1ある場合,フルコースの輸送担体(トランスポーター),インスリンと拮抗してはたらくペプチドホルモンであるグルカゴン受容体,などの多様な因子の異常が原因と考えられているが詳細は不明である.インスリンを投与しなくてもすぐには生命を脅かすことはないが,血糖値を適度に下げるためにインスリン適用している患者も多い.

繰り返しの数が原因となるトリプレット・リピート病

 

 1990年代に入ってトリプレット・リピート病(triplet repeat disease)と呼ばれる奇妙なタイプの遺伝性病患が注目されるようになった.トリプレット・リピートとはCAG, CGGなどの3塩基を単位としたヒトのゲノムに散在する反復配列である.健常人においてもこの反復回数に個人差はあるが,その反復回数が極端に増加しているため,存在位置にある遺伝子の作用発現に異常をきたし,重篤な脳・神経筋系の病状を呈する遺伝性病患をトリプレット・リピート病と呼ぶ.これまでに9つの遺伝性神経病患の原因としてトリプレット・リピートの反復回数の異常が同定されている.これらの病患におけるトリプレット・リピートの存在位假は以下に示すように3つの場合に分類される. O mRNA のうちタンパク質をコードする領域内に存在するもの.翻訳のフレームが保存されているか,患者の異常タンパク質にはCAGコドンに対応するポリクルクミン(Gln)の長い挿入が含まれる.その影響により病患に特異的な神経細胞が脱落する.@mRNAのうちタンパク質をコードしない非翻訳領域に存在するもの.患者の夕ンパク質の構造は正常であるため発症の理由は未知である.翻訳制御に異常が生じているのかもしれない.@イントロン内に存在するため患者のmRNAもタンパク質も構造上は正常であるが,転写制御や染色体の構造安定性に異常が生じていると考えられるもの.

 

 たとえばハンチントン舞踏病(0型に属する)と呼ばれる遺伝性の神経筋病患では3塩基(CAG)の繰り返しが,健常人は11~34回程度の繰り返しのところが患者では37~86回と増加していた.このわずかな違いが30~50歳になってはじめて発症する,手足や顔の痙攣・舞踏しているようにみえる不随意運動・徐々に進行する痴呆化という重篤な病態を発症させているのである.この病気は優性遺伝するために両親のいずれかから変異遺伝子を受け継いだだけで必ず発疱する.しかも親・子・孫と世代が下がるごとに発症年齢が若くなり症状も重くなる.この表現促進現象(anticipation)と呼ばれる現象は遺伝するごとに反復回数が増えていくためと説明されている.とくに父親から遺伝するとこの繰り返し回数が増加するため,親と比べて子供は10~20年も発病が早まるという.その理由は精子形成のための減数分裂の過程で反復回数の伸長が起こるためらしい.

 

 これまでにみつかったトリプレット・リピート病の特徴をまとめて示した.健常人においてもトリプレット・リピートの反復回数は増えているが発病までにはいたっておらず,数世代先の子孫では発症する可能性が高い多数の潜在患者がいるという不気味な報告が気になる点である.一方,この病気がなぜ特定の神経細胞のみを死滅させるのかという疑問も謎に包まれたままである.最近みつかったHAP 1 (huntington associated protein 1)と呼ばれるCAGの長い繰り返し配列に由来するポリグルタミンリピートに特異的に結合するタンパク質はこの謎を解く鍵になるかもしれない.

 

 

 ポジショナルクローニングによる原因究明

 

 さて, 1980年代も半ばにさしかかってくると,原因となるタンパク質が見当もつかない難病さえ解決してしまう,ポジショナルクローニンブ(positional cloning)という切れ味のよい方法論が出現した.

 

 解析の原理はモーガンが発見した遺伝子連鎖という現象に基づいている.すなわち,われわれの遺伝子は精子卵子ができる減数分裂過程において,父親由来と母親由来の2本の染色体の間で遺伝子組換えを起こしている.ある染色体上の離れた2点間で組換えが起きる確率はその2点間の距離に比例して大きくなり,近接すればするほど組換え確率が低くなる.逆にいえば,2つの遺伝子の組換え頻度を測定することで染色体上に距離が計算できる.

 

 今,遺伝子病患の原因となっている遺伝子に近接する既知の遺伝子マーカーを使って家系内部の個人差を検出すれば,病気を発症した患者のみに特徴的な多型性がみつかるはずである.その遺伝子マーカーの染色体上の位置(配座)は既知なので,変異遺伝子の配座もつきとめられるという算段である.遺伝子連鎖解析を正確に行うにはいくつかの遺伝性病患の家系に対して家系図を集めることが重要である.いくつかの家系の構成メンバーから数十m/の血液を採取し,そ二からDNAを抽出して遺伝子マーカーにより多型性を検出する.

 

 たとえば,マーカーAに対しては,ある家系の場合,発症者は必ずパターン1を示すが,非発症者は必ずパターンを示すとする.一方,マーカーBに対しては発症者も非発症者もパラパラな多型性しか示さなかったとする.このときマーカーAは変異遺伝子と連鎖しているという.現在では染色体上の配座が決まった多数の遺伝子マーカーが準備できているので,組織的に多数の遺伝子マーカーを用いた遺伝子連鎖解析をいくつかの家系に対して行えば変異遺伝子の配座が正確に決定できる.あとは配座している染色体近傍のわずかな領域に存在する遺伝子をしらみつよしに調べあげてゆけば病患の原因となっている変異遺伝子にたどりつける. 従来,20センチモルガンほどの間隔でヒトの全ゲノムをカバーする一連の遺伝子マーカーをランダムに160個も調べあげればどのような変異遺伝子の配座も決定できるといわれていた.現在,多型性を示す遺伝子マーカーが多数集められ,それら相互の位置関係を組換え(交差)の頻度を計算することで決定した,平均1~2センチモルガン(1モルガンは組換確率が1%という意味で約100万塩基対に相当する)間隔の精密な遺伝子連鎖地図ができあかっている.これらをうまく用いればポジショナルクローニンブは効率よく進められるはずである.それでも運がよければ最初の数個を試すだけであたりが出るが,運が悪いと数百個の遺伝子マーカーを試さなくてはならない.ポジショナルクローニングを遂行するさいには今でも運試しと力仕事の覚悟は必要である.