生体センサー

 

 肺を中心とする呼吸器系、心臓を中心とする循環器系は、自動運動を許されていながら、いずれも中枢神経系のきびしいコントロール下にあります。中枢神経系が肺の動きを監視しているセンサーは二種類あります。一つは、血液の組成が化学的にうまく保たれているかどうかを感知するもので「化学受容体」と呼ばれており、他は肺や胸郭が動いているかとうかを感知する「力学受容体」と呼ばれているものです。いずれもきわめて複雑な感知システムをもっており、おそらくその構密さという点では、コンピュータのかたまりといわれるフェイルセイフを誇る最新ジェット機にも比肩しうるものでしょう。

 化学受容体、力学受容体が片時も監視の目をゆるめない理由は、運動したり、眠ったり、あるいは体の姿勢によっても時々刻々に変わってくる全身の細胞からの「代謝をおこなうための要求」に答えていくためです。それも肺に余分な仕事をさせ、エネルギーを無駄にしてしまうようなどんぶり勘定ではなく、肺自身が換気で消費するエネルギーを最小限度に抑えこむようにコントロールしています。賢い頭は、下っ端ではたらく肺の立場をつねに考えてくれているのです。

 そればかりではありません。有害な物質が吸入されそうになり、肺が大ピンチに陥りそうなときには、こんどは呼吸をおさえて肺に障害が及ばないようにブレーキをかける役目もしています。私たちの生体の中で各臓器がたがいに助けあい、またたがいに監視の目を鋭くして、命を支えているありさまは、まさしく不可思議というべきでしょう。

 肺がおこなっている呼吸と、心臓がおこなっているポンプ作用や血圧を保つ作用が決定的に違っているのは、呼吸は私たちが意識的に、また無意識に止めることができるという点です。ちょっと心臓を止めてみるということができないのにくらべれば、肺、心臓と隣りあった臓器でありながら、その運動のしくみはまったく違っていることがわかります。このように呼吸を「手動」に変えたり「自動」にもどしたりしているのは、私たちが話をする際鋩、横隔膜やその他の呼吸にかかわる筋肉を使っておこなわざるをえないということにも関連しています。気道や肺組織、胸郭から「力学受容体」を介して中枢神経系にもたらされるおびただしい情報を整頓してふたたび気道や胸郭にもどして、私たちが自分で運動したり、おしゃべりするような行動をする際に、それにうまくあわせてその動きを制御してくれているのです。

 センサーはこれだけではありません。換気は血管にあるレセプターおよび体温調節のレセプターからの情報をも受けています。病気で体温が高くなったときには呼吸がハアハアします。酸素消費量がいつもより増えたため、脳からの司令が出て摂取量を増加させるようにしている