もっともありふれたカリキュラム

 

 東大医学部を頂点とする大学医学部、医科大学の医学教育は、以来、ほとんどこの時期の体系を受け継いでいる。

 つまり、初めの二年間(学部に進む前の教養課程)の一般教養課目は、他学部と同じようにカリキュラムが組まれている。人文科学系、社会科学系、自然科学系の三つの専門ジャンルから三課目ずつ履修単位を取得し、外国語、保健体育なども併せて取得するわけである。

 この二年間に、まったく医学関係の専門課目を履修させない大学もあれば、二年生の後期から医学史、医学概論など医学・医療の入り口にある課目を履修させる大学もある。そして、この体系をまったく無視して一年の後期から医学教育の課目を教えこむ大学も新設の国・私立医科大学のなかには、当時からすでにあった。その功罪は、その後、医学部内部で問われていくことにもなる。

 医学課程に進んだ三年、四年次には、基礎医学が教育される。このなかには、解剖学・生理学・微生物学・発生学・薬理学・生物物理化学・放射線学・病理学・法医学などの専門課目の履修が義務づけられている。三年次になると解剖実習も始まり、実際に人体内部を見ながらの授業が進んでいく。

 そして五年次になると、臨床医学がカリキュラムのなかに入ってくる。C・P・Cカンファレンス・内科学・外科学・精神医学・小児科学・整形外科学・皮膚科学・泌尿器科学・眼科学・耳鼻咽喉科学・産婦人科学など各科ごとの学習が始まり、このときは大学付属病院に出むいて実際に患者に接しながら講義はつづけられる。大学病院に行くと、よく白衣を着た若い学生が、医師の周辺に集まってその診察ぶりをのぞきこむようにしている場面に出会う。

それが、教育実習の一環なのである。

 日本の大学医学部のもっともありふれたカリキュラムは、この体系を忠実に守っている。東大医学部を始めとする旧帝大系の医学部、それに戦後、医科専門学校から地方国立大医学部に昇格した医学部は、大部分がこの体系に沿ったカリキュラム内容であった。

『物語 大学医学部』保阪正康著より