呼吸器疾患の予兆

 肺の病気には、自然気胸のように急におこり、短時間のうちに悪くなっていく場合と、肺気腫や肺がんのようにゆっくり悪くなっていく場合があります。あるいは気管支ぜんそくのように、悪くなったりよくなったりをくりかえす場合があります。いずれにしても、後から考えるとSOSサインが何らかの形で出されていることが多いものです。

 ここでは、呼吸器疾患の予兆をどのように知るかについて、考えてみたいと思います。

 息が苦しい

 息が苦しいとか息切れの訴えは、私たちが診ている患者さんのなかでもっとも頻度の高いものです。専門用語では「呼吸困難」と呼びます。どういうわけか看護婦さんたちはこれを「呼吸苦」と呼んでいることがあります。ここは呼吸困難と呼びたいところです。生活苦と同じ範疇に入れられてはかないません。私たちが呼吸困難といっても、肝心の患者さんはかならずしも「息が苦しい」と表現してくれるわけではありません。ときには「胸が圧迫されるようだ」「喉がつかえる」「空気が足りない」と言われます。「夜中に窓をあけてほしい」とか「頭がボーツとする」「呼吸をするのに集中力が必要」「空気が肺の奥深くまで入ってこない」という訴えが、じつは呼吸困難が原因であったことがあります。

 息切れや呼吸困難がどのようにおこるのかはたいへんむずかしい問題で、すべてが明らかになっているわけではありません。健康な人では、運動中あるいは運動後に呼吸する空気の量、つまり換気量の増加や呼吸回数の増加が認められます。七かし、このときの生理学的変化が「不快な感じ」と認識されなければ、呼吸困難という訴えになることはありません。呼吸困難は主観的な感覚の表現といえましょう。「この苦しさは誰にもわかってもらえない」という患者さんからの訴えに、慰める言葉が出なくなる思いをすることがあります。

 病的な呼吸困難にはいろいろな特徴があります。ふつうは一分間に一五回前後である呼吸数が、二〇回以上に増加した場合には「頻呼吸」と呼ばれます。一分間の換気量が正常をこて増加した場合には「過呼吸」と呼ばれており、頻呼吸はかならずしも過呼吸ではありません。たとえば浅く早い呼吸は、頻呼吸ではありますが、かならずしも過呼吸とはいえません。炎の初期の兆候として、頻呼吸があります。