慢性閉塞性肺疾患

 

 長いあいだ、タバコを喫っている人の約二〇%が、停年の頃になるとせきや痰の量が増え、階段をのぼるさいに息が苦しいと訴えるようになります。なかには、気管支ぜんそくのようにときどきヒューヒュー、ゼイゼイするので苦しいと言う人もあります。慢性閉塞性肺疾患とは、気道が狭くなって空気が通りにくい状態であり、しかも気管支拡張薬による治療をおこなってもなかなかひろがりにくく、気管支の狭くなった状態が持続する閉塞性の換気障害を特徴とします。

 慢性閉塞性肺疾患肺気腫、慢性気管支炎より構成されていますが、さらにめんどうなことには気管支ぜんそくの病状と類似している点が多いことです。呼吸困難、せき、痰などはいずれにも共通する症状です。ときには判別が困難なことがあります。これら相互の関係は、だがいに重複している点が特徴的です。領域が臨床的に慢性閉塞性肺疾患と診断される場合です。

 若年者の気管支ぜんそくでは、発作のないときには多くは気道の閉塞が治り、呼吸困難もありません。このような場合には慢性閉塞性肺疾患とはいいません。本来は気道の慢性炎症である気管支ぜんそくでも、数十年も経過すると、皮膚が搬痕で硬くなってしまうように気管支の壁が硬くなるようになります。同じことが、長く年月のたった高齢者の気管支ぜんそくで見られます。狭くなった気管支が、薬でもなかなか元にもどりにくくなってきます。このような場合には、慢性閉塞性肺疾患と診断される可能性が高くなります。

 胸部CT像で肺を撮影すると、穴ぼこのように見られる部分があると、これは肺胞が広範囲にわたって崩壊していることをしめし、肺気腫と診断されます。痰の量が多く、ぜんそく作を認める場合には、慢性気管支炎と気管支ぜんそくの重なった病態と考えられます。一方、CT像で穴ぼこが認められたり、あるいは痰が多くても、スパイロメトリーで気道の閉塞が認められないということもあります。そのような場合には慢性閉塞性肺疾患とは診断されません。このように慢性閉塞性肺疾患という病名は、同じような症状のもので治療方針もだいたい似通っているものをいっしょにして取り扱おうとする乱暴なやりかたのようにみえます。しかし診断をどちらにすべきかいろいろ迷う必要がなく、実際的ではあるという利点があります。