大学病院で研修する医師が減っている

 

 かつての大学医学部での研修医と現在の研修医たちのあいだにはどういう変化があるのだろうか。

 この点については、研修医をとりまく医療環境と世代的な変化の両面から見なければならないのだが、メディアの側も積極的にこの変容について報じるようになっている。こうした報道の内容を私なりに分析し、さらに私自身の取材を加えて確かめていくと、もっとも大きな違いは、研修医として医学知識・医療技術を身につけるのに、自らの出身大学にこだわらなくなっているということである。

 『日本経済新聞』が平成に入って、医師がどのように育てられているかを報じたなかで、興味のある事実を指摘している(二〇〇五年七月二四日付、「新臨床研修制度2年目、患者診て医師育つ」)。以下、その記事である。

 毎年新たに医師免許を取得するのは約八千人。従来は、そのうち、七割が出身大学の付属病院で研修していた。新制度で医学生が卒業前に研修を受ける病院を登録、病院側の採用希望とすり合わせる「マッチング方式」を導入したところ、大学病院で研修する医師は昨年度は六割、今年度は五割近くまで減った。

 このことは、大学医学部側にとっては意外なことだったようで、どの大学医学部でも、卒業時の学生に「医局に入局しての研修を」との呼びかけを行うようになった。なぜこういう状態になったかについては、研修医の側には「大学医学部より国公立病院・指定の民間病院のほうが現実に役立つ」という見方があるし、研修医を受け入れる病院側でも、外国の大学病院との提携により海外での研鑚の機会を約束するなどのメリットを与えている。それぞれの利害が一致しているということにもなるのだろう。

 卒後教育としての研修医育成は、医師を育成していく上で欠かせない役割を果たし、より質の高い医師像を目指して常に検討が加えられてきた。

 そのプロセスを改めて整理してみると、厚生労働省が示している「新たな医師臨床研修制度」によるなら、医師の研修医制度の変化は次のようになるという。この流れのなかに戦後日本の医師養成の現実の姿が凝縮している。

昭和ニー (一九四六)年に創設された、実地修練制度。いわゆるインターン制度

 大学医学部を卒業後、医師国家試験の受験資格を得るためには、「卒業後一年以上の診療及び公衆に関する実地修練」を行うことが義務とされた。

二 昭和四三(一九六八)年に実地修練制度が廃止され、新たに臨床研修制度が創設される制度の改革により、大学医学部を卒業直後に医師国家試験を受験し、医師免許を取得後に二年以上の臨床研修を行うように“努める”ものとするとされた。研修が努力目標とされたのである。

三 平成一六(二〇〇四)年から改めて始まった、新医師臨床研修制度診療に従事しようとする医師は、二年以上の臨床研修が必修となった。

『物語 大学医学部』保阪正康著より