低体重での出生と糖尿病の関連について

 

糖尿病

 誕生時に低体重の赤ん坊は、ふつうの体重の赤ん坊に比べて中年になってから糖尿病にかかる危険度が高い。ロンドン公衆衛生大のデービッド・レオンは、1333人の60歳のスウェーデン男性の出生記録と糖尿病の有無を調べ、体重と身長の比率である「ぽっちゃり度」が下から20%の男性は、そうでない男性より2型糖尿病に3倍もかかりやすいこと、しかも、糖尿病の男性はインスリンの効きが悪いグルコース(ブドウ糖)抵抗性を示すことを発見した。回れはどうしたことか。胎内での栄養素が不十分であれば、胎児は「倹約型の代謝」を採用する。「倹約型の代謝」の1つがインスリン抵抗性で、手持ちのグルコースを利用せすに貯蔵しようとする。この代謝を持った人が、ジャンクフードを食べると、身体がグルコースで満ちあふれ、糖尿病になる。しかしだからといって、低体重で生まれた人が糖尿病を運命づけられているのではない。

 誕生時に細いことが中年になってからの糖尿病の危険度を高めることは確かだが、細いままでいれば危険度はすっと小亡くなる。糖尿病は、子宮内の生命が遺イ云子によって決定づけられた存在ではないことを証明する好例である。

コレステロール

 高脂肪で高コレステロールの食物を食べても健康を損ねることのない幸運な人がいるかと思えば、それほどコツテリしたものを食べなくても高コレステロールに苦しむ不運な人がいる。どうしてそんな不公平が生じるのか、長い問の謎であった。

 この謎解きをしてみよう。これらの幸運な人々は、まるで下水処理場が下水をきれいにするように、脂肪とコレステロールを高い効率で分解するように、胎児のときにプログラムされたのである。一方、不運な人は、欠陥のある下水処理場を持ったようなものだ。

 誕生時に腹部が小さければ小さいほど、成人してからのコレステロール値が高い傾向がある。どういうことかというと、もし母親が栄養失調になっているとか、胎盤に問題があって胎児が十分な栄養素を母体から受け取ることができなければ、胎児は、この緊急事態に対処するための特別のスイッチを入れなければならない。

特別のスイッチの1つは、血液を他の臓器に優先して脳に向けることである。すなわち、生命の維持に最も欠かせない臓器である脳に血液を送るためには、腹部の臓器を犠牲にするということだ。

 このときに犠牲になる臓器の代表が、肝臓である。肝臓が小さすぎると、コレステロールを分解する能力が低下するため、分解されなかったコレステロールが血液中に蓄積するのである。

乳がん

 妊娠中の母体から放出されるエストロゲンなどのホルモンが、胎児をふくよかに成長させる。だが、過剰なホルモンは、将来、乳腺組織がエストロゲンに接触したときに、この組織を乳がんに変える危険性がある。

心臓病

 誕生時に低体重の赤ん坊は、ふつう体重の赤ん坊に比べて、中年になってから心臓病にかかる危険度が高い。栄養素が不足した飢餓状態は、胎児の血圧とコレステロールを高めに設定すると考えられる。

 遺伝子と環境という際に、環境が実は私たちが母の胎内にいる時から始まっていること、胎児期の環境が成人した後の健康に重大な影響をおよばすことを見てきた。

 しかしだからといって、遺伝子や胎児期の環境が私たちの健康をすべて決定するわけではない。次に、生活習慣病の代表ともいえるがんと遺伝子や環境との関係を取り上げてみよう。