関心相関的に真のアウトカムは何か

 

 「そんなことはない。先生にもらった高血圧の薬、私はあれを飲んだらてきめんに血圧が下がった!」。そう反論される方もいらっしやるかもしれません。

 確かに、血圧の上げ下げはわかりやすい一目瞭然の指標です。だから、血圧の薬を飲むと血圧が下がるという点に関しては、それで問題ないでしょう。

 でも、ちょっと待ってください。子宮頸がんの検診の話のとき、私は「目的に照らし合わせれば検診の価値はあるかもしれない」と言いました。では、血圧を下げる薬の「目的」とはいったいなんでしょう。

 それは、血圧を下げること「そのもの」にはないはずです。なぜなら、血圧が高くても低くても大抵の人は全然症状がないからです。よっぽど高くなればふらふらしたり頭が痛くなったりするかもしれませんが、多くの方は血圧が高くても痛くもかゆくもありません。血圧は測定するから高いのであって、測定するまでは認識されない病気なのです。高血圧も人間が病気と認識し、定義し、名前を付けた現象です。血圧計が発明され、普及するまでは人間界に高血圧という病気は認識されていなかったのです。昔も高血圧の人はたくさんいたでしょうが。

 では、なぜ私たち医者は高血圧なんて病気を作り上げることにしたのでしょう。

 それは、血圧が高くなるという現象そのものを問題にしたためではありません。血圧の高いままでほったらかしておくと脳に出血(脳卒中)を起こしたり、心臓の血管が詰まってしまう心筋梗塞になったり、さらにそれが理由で死んでしまうこともあるからなのです。そして、血圧を下げるとそのリスクを減らすことができます。特に糖尿病などを合併していると(糖尿病も血糖を測るから病気と認識され、定義される「現象」です)、その恩恵はさらに増すと言われています。

 でも、高血圧の人もしょっちゅう脳卒中になったり心筋梗塞になったりしていてはやっていられません。大抵の高血圧の人は脳卒中にも心筋梗塞にもならずに生きています。でも、何万人というたくさんの高血圧の人を集めてみると、明らかに高血圧のない人に比べて脳卒中心筋梗塞の危険は高いですし、実際たくさんの人が死んでいます。そして、血圧を薬で下げることで、その危険を減らすことができるのです。

 そういった「一見してわからない(小さな)利益」を知るためにくじ引き試験は有効なのです。通常、何百人という人を集めてきて、2つのグループにくじ引きで分けて、薬を飲んでもらうグループと飲まないグループに分けて、死ぬか死なないかを比較するのです。薬を飲まないグループは、自分たちが薬を飲んでいないとわかっていると、余計に健康食品を食べたりジムで運動したり、タバコやお酒を控えて節制するかもしれません。それでは本当に薬が効果をもたらしたのかはわからないので、通常薬を飲まないグループも、錠剤をもらいます。でもその錠剤の中には薬効成分がないのです。これをプラセボと呼んでいます。偽薬ですね。プラセボとは、ラテン語で「喜ばせる」という意味なのだそうです。

感染症は実在しない(構造構成的感染症学)』岩田健太郎著より