大規模試験だから価値が低い

 

 ときどき製薬メーカーさんが私のところにやってきて、「これは4万人の患者さんで行った大規模くじ引き試験です」と鼻息荒く宣伝します。たくさんの人を集めてやった、お金もたくさんかけてやった大規模の研究結果で、その薬が「効く」ということがわかったのです。

 この裏には、大規模スタディーはいいスタディー、大規模スタディーは小規模なしょぼいスタディーよりも価値が高いという前提が潜んでいます。

 でも、冷静になってよく考えてみるとこれはおかしいのです。何万人も集めてやった大規模スタディーと言っても、それは逆に「何万人も集めなければ両者の差が見つからなかっか、微妙な研究」ということになるでしょう。本当にその薬が劇的に効くいい薬なら、5人くらいに飲ませても効果は一目瞭然でしょう。10人と10人で比較しても効果ははっきり見ることができるかもしれません。100人と100人で比較しないとその差がわからないというのは、もうかなり効果が微妙になってきています。それが数万人と数万人を比較して、やっと両者は違うんだ、とわかったのです。ということは、確かにその薬は効くかもしれませんが、その効き加減はほんのちょっと、ということにならないでしょうか。お金と時間をかけてやった巨大な研究でやっと効果がわかった薬は、5人ぽっちで効果のわかる薬よりも明らかに価値が低いと言えるでしょう(制作費が高い分、前者の薬のほうがお値段は高いかもしれませんが)。

感染症は実在しない(構造構成的感染症学)』岩田健太郎著より