インフルエンザの薬

 マンディは、体格のよい、元気と自信にあふれた少女で、はちみつ色の髪、率直で温和な顔、広い肩をもち、男の子のようにふるまう少女だった。男の子にまじってフットボールをするのが大好きで、パント、パス、キックを争うコンテストでは男子を負かし、トロフィーを勝ち取ったこともあった。そしておおむね健康だった。その凍てつくミネソタの冬、。快速船”と呼ばれる風がカナダから吹きおりてくると、マンディは、例年より風邪やインフルエンザにかかりやすくなった。そして今回ばかりは、スープを飲み、ベッドに横になっていても、ちっともよくならなかった。それでも、とくに母親を心配させるような症状は見られなかった。一九九九年の新年を迎えた直後に不調を訴えるまでは。

 マンディが、鼻をすすり、くしゃみをはじめたので、金曜日、母親は学校を休ませた。週末をすぎたころ、マンディは外で遊べるくらいに回復したが、風邪の症状は消えなかった。火曜の夜、マンディは眠れなかった。咳がひどくなり、下に降りてきてはトイレで痰を吐きつづけた。「もう、いやになっちゃう」階段を降りてくるのが五、六回めになったとき、マンディはつぶやいた。母親は、枕元で使えるよう、マンディに手おけを渡した。翌朝、母親が起き、マンディの部屋をのぞいたところ、娘はいなかった。もう着替えて下に降り、学校にいく準備をしているのだろうと思ったが、居間に行ってみると、マンディはパジャマ姿のままソファーに横たわっていた。モナは娘の口に体温計をいれた。三九・九度の高熱であった。「たいへん。病院に行かないと」モナは言った。そのとき、モナは手おけに目をとめた。半分ほどまで痰がたまっている。最初は、娘がインフルエンザの薬をもどしたのだろうと思った。手おけのなかのぬるぬるしたものが、ずいぶん赤みを帯びていたからだ。