医学探偵

 医学探偵としてナイミは、ミネソタ州北部のとある小さな村落を訪ねた。そこに患者が集中しており、その大半がオジブワ族たった。ナイミは、医師、看護師、患者の家族、そしてじゅうぶんな年齢に達していれば、患者自身に質問をしてまわり、なんとか謎を解く手がかりを得ようとした。たとえば、患者の身内に最近入院した人がいるかどうかと尋ねた。入院中にMRSAに感染した人間が、退院して自宅に菌をもって帰ったかもしれないからだI院内と市中では、菌株が異なっているようではあったが。ところが、いくら質問してまわっても、そうしたつながりはまったく見られなかった。逆によく遭遇したのは、ひとりの子どもがほかの子どもに、あるいは家族に感染させたらしい例たった。共通する犯人は化膿性の腫脹、またはとびひであり、こうしたブドウ球菌による症状により、病原菌が宿主の血流へとはいりこんだ。シーツ、タオルなどの共有で使う物も菌の運搬の手段、つまり医師が言うところの「乗り物」になった。

 ナイミは、子どもが親より病原菌に感染しやすいのは、自宅でも保育施設でも、おとなより身体的接触が多いからではないかと疑っていた。だが、いったい病原菌がどこでどのように発生しているのかという問題については、まったく答えが思い浮かばなかった。たしかに、多くの患者の社会経済的地位が
低いこと、そしてネイティブーアメリカンが非常に多いことは、ナイミにもわかっていた。だが、例外もあった。たとえば、マンディータイスは中産階級の家庭の子どもであったし、そもそも一般的な傾向として、社会経済的な階級はあくまであいまいな手がかりでしかなかった。細菌はたいてい、薬剤に対する反応として、薬剤への耐性を獲得する。貧しい人たちは、裕福な人たちほど薬を使わないのではないか? そういう場合もあるかもしれない。だが、裕福な人だちより多く使っている場合もあるはずだった。はたらきすぎの医師が、抗生物質が正しい治療法であるかどうか時間をかけて診察せずに、生活保護を受けている患者に万能薬として処方する場合もあるだろうし、診察代を節約するために、余った抗生物質を家族や友人に渡す場合もあるだろうから。