免疫グロブリンG

 シュリヴァートは、市中MRSAに感染した三九人の患者から血液を採取し、検査をおこなった。この患者のうち四人はすでに死亡していた。三三人から、彼の旧友、黄色ブドウ球菌の毒素が発見された。たまたま、この菌株はTSST-1ではなかったが、三九人のうち二九人に、エンテロトキシンC型が、四人にエンテロトキシンB型が見つかった。シュリヴァートには、もう残りのパズルをどうはめればいいか、よくわかっていた。市中MRSAに感染し、死亡した四人の子どものうち三人が、壊死性肺炎にかかっていたのである。四人めは、呼吸不全におちいっていた。四人の患者全員が、黄色ブドウ球菌の毒素にとって理想的な繁殖地となっていたのである。「残りの子どもたちは生き延びたが、それは、その子たちの市中MRSA感染が皮膚感染ですんでいたからだ」と、シュリヅアートは断言した。

 投与が間にあっていれば、バンコマイシンで四人とも救えたかもしれない、とシュリヅアートは認めた。だがバンコマイシンは最初に選択する薬としてはあまりにも高価であり、マンデイのように毒素がすでに血流にまで広かっている場合はもう役に立だない。そこでシュリヴァートは、免疫グロブリンGに大きな期待を寄せるようになった。免疫グロブリンGは、一九八〇年代後半から使用されるようになった製剤で、一〇〇〇人の提供者の免疫システムから得た抗体を集めたものである。免疫グロブリンGは、患者の免疫力を高めなければならないとき、たいてい役に立つ。とくにMRSAに対して、免疫グロブリンGは、毒素性ショック症候群を生ずる三種類の毒素すべてに抗体をもっている。この抗体は一〇〇〇人もの提供者から集めたものであり、治療の対象となる毒素と遭遇した経験のある抗体がどこかに含まれているはずだった。免疫グロブリンGの適切な抗体が毒素と結合し、不活性化するだろう。そうなれば、バンコマイシンにトト患者が感染した菌がMRSAでなければβ-ラクタム薬に疫システムが感染に打ち勝つのを手伝う機会が与えられる。免疫グロブリンGは新しい製剤であり、高価だった。だがシュリヴァートは、これが市中MRSAに対する一時的な特効薬になるはずだと感じていた。