医学部学生の志望理由:「金をもうけたい」「人に尊敬されたい」

 

 1980年ごろの大学医学部への進学者、つまり医師を目ざす者には、それまでとは異なる特徴があった。まず医学部の定員が2倍にふえたわけだから、その門戸は広まったことになる。しかし、新設の30大学のうちその半数近くは俗に「新設私立医科大」と称されたように、私学法人の経営であり、経営状態を安定させるために膨大な入学金や授業料が合格者には課せられた。寄付という名目での3000万円、4000万円という金はあたりまえで、1億円近い寄付金か要求されると噂された医科大もあった。

 息子を医師にしたいという開業医が、成績かおるいにもかかわらず億単位の寄付を申し出て裏口入学で押し込んだ、といった噂などはそれこそ掃いて捨てるほどあったのだ。数学、
生物などが零点でも入学した学生かいるとさえいわれていた。合格点に達しない分の不足は金銭に換算されて寄付し、それで入学したという証言も私は聞いている。

 新設私立医科大の駐車場には、派手なスポーツカーか並んでいるとの光景も珍しくなかった。医学部学生が、ヒューマニズムにあふれ、高い能力をもち、知識欲も同世代の者の中では抜きんでているというイメージは、この期にしだいに色あせていったともいえた。

 この期の医学部学生のその志望理由は、私なりに分析してみると次のようになると思う。いわば、医師になりたいという動機ぱどのようなものか、という分析でもある。

①成績がよく、病いから人びとを解放したいと思っての入学。

②成績かよいか、特別に医師になりたいと思っていたわけではなく、家族や教師、ときに予備校の教師によって勧められて医学部へ進行。

③医師の息子で、父親の意思で入学する。成績は同世代の中でも抜きんでているわけではない。

④成績は平均以下だが、多額の寄付金をつぎこんで入学(それも裏口入学というケースか多い。ときにコネ入学というケースさえある)した者。

⑤医師の社会的評価は高く尊敬は受けられるし、経済的にもゆとりのある生活を送ることかできるとして医学部に進んだ者。

 こういう5つのタイプかあったように思う。20年前(1960年ごろ)と比べると、表面上は大きく変おっていることに気づくだろう。医学部入学は、「成績のレベルか高いか、それとも実家が金持ちか」と二極分化したこともわかる。それに、医師は経済的に楽な生活か保障される、という理由を公然と語る医学生も珍しくなくなった。

『医学部残酷物語』保阪正康著より