がんの診断と症状

 

 がんという病気は始めのうちは何の症状も伴わない。だから早い時期に見つけるのが難しい。がんがある程度進むと、そのがんが発生した臓器が本来もっていた働きを損なうことになるので、さまざまな症状が起こりうる。これを「がんの症状」としてまずまとめてみた。特定のがんと関連する「リスターファクター(危険因子)」もいろいろわかってきているので、症状と関連させてその次の項にまとめた。

 症状の有無にかかわらず、がんの診断は存在診断--身体のどこかにがんができていることの診断-と、質的診断-‐‐-どこに、どんな性質のがんが、どのくらい進んでいるかを診断すること。この組合せで進められる。現在は画像診断、マーカー診断、病理診断が中心だが、次に「診断の方法」を述べることにする。

 がんの診断は治療方針の決定のためになされるわけだが、診断が構密になるにつれ、たとえ病名は同じであっても治療方針は個別化していく。がんが個性豊かな病気であることから、一人ひとりの患者さんでがんの個性が診断できるようになると、当然、治療の個別化は今後ますます進んでいくだろう。患者さん自身が、その病状によって治療方針の多様な選択を迫られることになれば、いわゆる「がんの告知」の重要性はいっそう増すことになる。そこで診断の最後の部分で告知の問題にも触れることとする。

   がんの症状

 がんの症状を記す際には、どういうがんにはどういう症状を伴うかという書き方と、こんな症状のときはどんながん、が考えられるがという二通りの方法がある。ここでは症状によってがんの種類を考えるまとめ方をとることとした。起こりうるすべての症状を記載することはできないし、いろいろな組合せもありうるので、ここに記したのはあくまで代表的な目安と考えていただきたい。

 日本人がもっともかかりやすいがんは消化器がんであるので、消化器の症状から始めたい。消化器の症状吐き気、嘔吐、食物の喉の通りが悪い(嚥下困難)、食物が通過するときの胸の灼ける感じ、お腹の痛み、黄疸、下痢、便秘、緇い便、大便の色が黒い、あるいは白し、便の表面に巓が付く、腹満感、やせなどが代表的な症状といえる。

 吐き気、嘔吐、お腹の痛みなどは胃がんのときに起こりやすい。食物を飲み込むときの胸の部分の灼熱感、しみる感じ、食物がっかえる感じ、嚥下困難などは食道がんの症状の代表である。お腹の痛みは胃がんでも膵がんでも、胆嚢・胆管がんでも大腸がんでも起こるが、がんの発生した臓器によって痛みの性質が徴妙に異なる。黄疸は、膵がん、胆嚢・胆道がん、肝がんで認められることが多い。下痢や便秘、ひどく細い便がる、などは大腸がん、直腸がんの症状で、消化管内容に血液が混じり時間がだったものは黒色便となる。黒色便は胃がんでも見られることが多い。直腸、がんの場合は便の表面に鮮血が付着する。便の表面に血液が付着する一番普通の病気は痔だが、症状だけからは両者の区別はっかない。胆汁が十二指腸に流入しないと便が白っぽくなる。大腸がんが進行して腸閉塞を起こしかけるとお腹が張ってくる。腹満感は胃がんが腹腔内に広がってがん性腹膜炎を起こしたために腹水がたまっても、肝がんの基礎病変である肝硬変のため腹水かたまっても生ずる症状である。やせること消化器がん全体に共通する症状ともいえるが、とくに膵がんではいちじるしい。膵がんの場合、やせや背部痛も大切な症状の一つである。