陽子線治療

 

 がんの部分だけに必要な量の放射線をかけ、周囲の正常組織にはなるべく放射線がかからないような、つまり副作用、障害を減らす新しい技術として注目されているのが陽子線治療、重粒子線治療である。

 陽子線治療に使われる陽子は水素の原子核で、サイクロトロンなどの加速器で光の速さの六割ほどのスピしドに加速して患部に集中させる。患部では電離作用によって生じる分子ががん細胞のDNAを傷つけがん細胞を死滅させる。患者さんは痛みも熱も感じない。陽子線の特徴はX線やy線と違って体内を通る粒子が組織の中で止まる直前にエネルギー吸収がいちばん大きくなることである。この特徴を生かすために、体内に打ち込む陽子のスピしドを調節することによって、体の奥の部分にあるがんの病巣にだけエネルギーを集中させ、病巣を叩くことができる。

 日本では筑波大学が一九八三年から研究に取り組み、これまでに約五百人の患者さんを治療してきた。肝臓、食道、脯、頭頸部のがんが対象だった。「手術と同程度の効果が期待される」と結論されている。陽子線治療が注目されるのは、これからますます増加が見込まれている高
齢者のがんに使える新しい治療法ではないかという点てがん治療を専門とする本格的な設備を新設する計画が相次いでいる。国立がんセンター東病院では陽子線装置と新しい建物を導入する準備を進めており、一九九八年一月から本格稼働に入る予定でいる。これが軌道に乗れば、年間四百人程度の脯、肝臓、頭頸邵がんなどを中心とした患者さんを受け入れ治療する計画である。筑波大学でも三年計画で医療用の陽子線装置の導入が予定されている。

 静岡県も二十一世紀初頭に完成予定の県立がんセンターに陽子線施設を導入した。国外ではすでに十二施設で使われており、従来の放射線治療の欠点を補う新しい治療手法として注目されている。