放射線治療の今後

 

 放射線治療は外科治療、化学療法とならんでがんの主要な治療法であるが、わが国では必ずしもその威力が発揮されていないきらいがある。放射線治療装置は一般に大型で高価なものが多いが、多数の医療機関に散らばって配備されており、一施設での治療患者数が少ない、放射線治療を専門とする医師の数が少ない、局所療法としては圧倒的に外科手術が優先されていて医療関係者の間でも放射線治療の利点が十分理解されてしない、など現時点では多くの問題点があるからである。しかし、高齢のがん患者さんがふえることが確実なわが国のがん治療を考える上で、放射線治療には今後もっと力を入れられるべきだろう。

 その役割は、

 ①形態と機能を温存してがんの根治的治療を行なう、

 ②単独あるいは併用療法によって進行がんの局所再発率を下げ生存率を向上させる、

 ③対症的治療としてがん性疼痛や神経症状の改善をはかる、

 ④予防的処置として再発、転移をおさえること、などが考えられる。

 具体的に例をあげれば、①については頭頸邵がんでは嚥下、咀嚼、会話などの機能を残してがんを根治させ、患者さんのQOLを維持したまま社会復帰ができる。②では、進行肺がんや食道がんで併用療法によって局所制御辛生存率の向上がはがられている。③の代表例はがんの骨転移で、疼痛改善率は八〇-九〇%近くに認められている。④については、肺小細胞がんの予防的全脳照射や、子宮頸がんの腹部大動脈周囲のリンパ節照射によって転移が抑えられることが確かめられている。

 がんの臨床にたずさわるすべての医師は放射線療法の良い点、問題点を熟知した上で、個々の患者さんに適切な選択肢を提示することがますます求められるようになると思う。