抗がん抗生物質

 抗がん抗生物質

 カビなどの微生物が作り出す物質でヽ他の菌の増殖を阻止する物質を抗生物質と呼ぶがヽこ れらの中にがん細胞の増殖を抑える作用をもつ物質が見出されている。アクチノマイシンは一九四〇年に発見された。またイタリアの研究者によってアンいラサイクリン系化合物としてダウノルビシソ、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、が開発された。わが国ではマイいマイシンや、ブレオマイシンが発見されている。こうした抗がん抗生物質の多くはDNAの二重らせんの間に入り込んで二重鎖の間に架橋を形成することにより、DNAあるいはRNA合成を阻害したり、DNA鎖の切断などの作用により細胞の増殖を抑制する。

 ポドフィロトキシン誘導体

 植物の根からとられたポドフィロトキシンにはエいポシド、テュポシドなどがある。これらの物質はDNAが複製する上で不可欠な核内のDNA複製に関係する酵素いポイソメラーゼHと結合して複合体を作って、DNA合成阻害により細胞分裂を抑制する。

 ビンカアルカロイド

 植物アルカロイドの一種であるコルヒチンががん細胞の有糸分裂を阻害することが知られていた。ビンカアルカロイドと総称されるこれらの物質は、細胞分裂の際にチューブリンの重合を阻害してがん細胞の増殖抑制効果を発揮する。現在臨床でよく用卜られるビンクリスチン、ビソブラスチンもこのグルいフに属し、これらの誘導体としてビソデシンやピノレルビンなどがある。

 タキサン

 近年開発されたパクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテレ)は前に述べたビンカアルカロイドとは逆にチューブリン重合の促進、安定化により脱重合を抑制し細胞分裂を阻害する。

 カンプトテシン

 カンプトテシンは一九六〇年代に米国で開発された抗がん剤だが、強い下痢と出血性膀胱炎のために研究が中断されていた。一九八一年にわが国の研究者により水溶性のカンプいテシンの誘導体、塩酸イリノテカン[CPT]←)が開発された。CPT-11は身体の中でカルボキシエステラーゼという酵素の働きでXツ「‐Sという物質に変換され、いポイソメラーゼーと結合して、DNA-酵素-薬剤という安定した複合体を形成することによりDNA合成を阻害する。

 シスプラチン

 シスプラチンは白金電極の周囲に抗菌作用が認められることから発見された抗菌剤だが、二重鎖のDNAと結合して鎖内(intrastrand)あるいは鎖間(inters trand)結合を起こすことによってDNA合成を阻害する。シスプラチンは肺がん、胃がん、食道がん乳がん卵巣がん、睾丸腫瘍などの固形がんに広い抗腫瘍活性を示し、現在の固形がん治療の中心を担って卜る。シスプラチンの腎毒性などの毒性を軽減するため、カルボプラチンや、わが国で開発された254-Sなどの誘導体がある。