抗がん剤の投与方法

 

 がん患者さんに抗がん剤を投与する方法は、その目的によって次に示すようないろいろな場食がある。何をめざしてどんな投与法が考えられているのかについて、触れておきたい。

 がんが局所的にもかなり進行しており、ときには転移を伴っていれば普通は手術の対象とはならない。しかし、化学療法が著効を示すようながん、ある卜はかなりの効果が認められるがんの場合には、まず化学療法を実施して局所のがんを縮小させ、あるいは転移巣のがんが消滅した段階で手術をする、と卜うのが術前化学療法の考え方である。

 睾丸腫瘍は代表的な対象であるが、それ以外にも頭頸部がん、食道がん、膀胱がん、骨・軟部腫瘍などで応用されている。とくに骨・軟部腫瘍の場合には患肢の温存にっながる可能性をこの治療に求めることになるし、膀胱がんで術前化学療法が非常に効いた場合には、膀胱温存も試みられる。まだ研究的な段階だが、患者さんのQOLの向上という見方からすると大切な化学療法の使い方である。

 2術後化学療法

 術前化学療法の弱点の一つとして、がんの進行の具合の判定は術前の画像診断辛生検によっているので、本当にどこまでがんが進行していたのかが、はっきりわからな卜場合がある。術後化学療法はがんの手術を終わって、病理検査により、原発巣では、がんがどこまで進んでいたがリンパ節には何個くらい転移があったかなど、もっとも正確な情報を得ることができる。こうした病理学的所見によって、がんが再発する危険性が高いことがわかっている患者さんに対して、手術後に化学療法を加えるのが術後化学療法である。

 残念なことに術前、術後化学療法とも、睾丸腫瘍のような特別な例を除くと、手術の前後に化学療法を加えても長期生存、つまりがんが治る率がどのくら卜向上するがという点では世界的にもまだ一致する解答が得られていない。その意味ではこれらの化学療法はまだまだ完全とは卜えない治療であって、専門病院で経験の豊かな医師が注意深く実施していくのがよい、と思う。

 3局所化学療法

 局所化学療法は正常組織に傷害を与えないで、がんだけを選択的に死滅させようとする抗がん剤の投与法である。代表的な二つの場合をとりあげてみよう。一つは肝動脈内注入療法で、肝がんや、他の場所に発生したがんが肝臓に多発性に転移した場合などに使われる。肝臓に血液を送り込んでいる肝動脈に細くて柔らかいチューブを留置し、その端を体外のポンプにつなぐ。ポンプの中には5’フルオロウラシルのような抗がん剤を定期的に補充して、肝臓の中のがんに絶えず抗がん剤が達するように工夫してある。この方法により、全身的な副作用をほとんど生じさせることなく、がんが小さくなったり、消えたりする。こうした持続注入のほかに、一回だけ注入する方法を繰り返すやり方もある。こうした治療によりがんは小さくなるが、患者さんの長期生存の延長効果につ卜てはなお慎重な検討が必要である。

 もう一つの例は、がん性腹膜炎で腹本かたまっているような患者さんに対して、お腹に針をさして腹水を抜き、代わりにマイいマイシンとかシスプラチンといった抗がん剤を腹腔内に注入する方法である。この方法も全身に影響する副作用は少ない。現在のところは対症療法のつと考えられている。