抗がん剤の副作用とその対策

 

 抗がん剤ぽがん細胞を死滅させるのが目的で使われるのだが、正常細胞にもその作用が及ぶ。とりわけ細胞分裂のさがんな正常細胞、たとえば骨髄細胞、消化管の上皮細胞、毛根細胞などが抗がん剤の作用を強く受けることになり、それが抗がん剤の副作用につながる。

 抗がん剤を投与するとすぐ現れる副作用としては悪心、嘔吐、皮疹、各種のアレルギー反応、腎障害や肝障害などがある。二週間前後をピークに現れる副作用は白血球や血小板の減少、髪の毛が抜ける、口内炎、腸管麻痺、下痢などがある。数力月の時間単位で起こりうる副作用としては貧血、難聴、末梢神経障害、肺線維症、心筋障害、腎不全、肝障害、色素沈着などがある。多年におよぶ副作用としては不妊症や二次発がんの問題がある。

 こうした副作用の中でもとりわけ多く見られるものに悪心、嘔吐に代表される消化管障害と、白血球や血小板の減少に代表される骨髄機能障害がある。この二つの副作用を代表としてとりあげ、その対策に触れた卜。

 抗がん剤によって吐き気が強まる理由の一つとして、セロいニンと卜う物質が腸のエソテロクロマチン細胞から遊離され、消化管を支配している迷走神経の端にあるセロいニンの受容体を介して、脳の中の嘔吐中枢を刺激する作用が考えられている。これに対してセロいニンが結合する受容体の拮抗薬は、受容体にフタをする形で結合するため、後からセロいニン、が来ても結合できなくなる。その結果、脳の嘔吐中枢が刺激されず、吐き気がおきな卜ですむ。こうした作用が非常に強卜新しい薬としてグラニセいロンとかオンダンセいロンなどの薬が開発され、すでに保険薬として使用が可能である。シスプラチンのように強し吐き気、嘔吐をひき起こす抗がん剤を使う際に、上手なタイミングでこうした制吐剤を使うと吐き気、嘔吐はよくコンいロールされ、患者さんの苦痛は格段に減った。

 抗がん剤の使用がもっとも強く制限されるのは骨髄抑制こMyelosuppression)である。白血球が減少すると感染から身を守る力が低下し、細菌やウイルス、カビなどの重症感染症を起こしやすくなり、ときには生命の危険にもつながりかねない。白血球の数は化学療法を開始して十四日前後で最低値になることが多い。白血球が減少した場合には、患者さんをできるだけ清潔な空気環境下におき、感染菌に対する抗生物質製剤を上手に使い、あわせて白血球の増加を促す薬を使ってきり抜ける。白血球、とくに顆粒球の増殖を刺激、促進する造血因子としてのICSF((jranulocyte-Colony Stimulating Factor)と卜う蒂が開発され保険医療で使えるようになった。遺伝子工学の進歩によってヒい型ののIQsが作られるようになって、抗がん剤使用中の白血球低下が防止され、その結果として感染予防ができるようになった。また、抗がん剤の量をさらに増加させて治療効果を高める上で、この薬はがんの化学療法を行なう際にはなくてはならない薬となった。

 骨髄抑制の一つとして、赤血球が減少して貧血が現れた場合は輸血が行なわれる。最近は赤血球になる赤芽球細胞の増殖を促し赤血球の増多をきたすIリスロポIチンという薬が使用可能である。血小板減少が起きると出血傾向、が強まり、放置すれば危険な事態が起こる。血小板輸血で急場をしのぐわけだが、最近はいロソボポIチンといって血小板の増加を促す薬も開発されつつある。臨床の現場で使えるようになるのも時間の問題であろう。セロいニン拮抗薬やのらX吻などの薬が使えるようになって、化学療法による患者さんの苦痛や危険性はずいぶん減ったし、化学療法がさらに効果をあげる可能性玉咼まったといえる。