肺線維症の症状

 

 典型的には四〇歳から六〇歳代に多いことが知られています。最初の症状は、本人が気づく一、二年前にはじまります。深く静かに潜航して迫ってくる魚雷艇のようなものです。女性よりも男性のほうがわずかですが、かかりやすいことが知られています。もっとも特徴的な症状は、じっと安静にしていても呼吸困難があること、歩いたりするとさらにこれが悪くなることです。また痰がほとんど出ない空ぜきが特徴です。それ以外に、全身の倦怠感や体重減少がみられることもあります。ときには関節リウマチに似た関節痛を訴える人もいます。

 肺線維症が疑われる場合には、職業歴、家族歴に注意しながら問診します。なかには家系で遺伝的におこっていると疑われる人があります。

 二~三日から一週間の短期間に、急速に症状が増悪して重症になる人がいます。急性呼吸窮迫症候群あるいは先のハーマン・リッチ症候群と診断される人です。慢性にゆっくりと悪くなる場合よりも、若い人に多く、子どもの場合もあります。

 体にはかなり特徴的な所見が見られます。呼吸数が多く、じっとしていてもハアハアしていること、歩行などでも唇や指の先が紫色になるようなチアノーゼをみとめることに加えて、聴診器でとくに背中の下方を聞いてみると、パリパリというクラックルと呼ばれる特徴的な音が聞かれます。クラ。クルは、血圧を測るときに腕に巻きつけるマンシェットを剥がす音に似ていることから、メーカーの名前をとって、ベルクローフ音(ベルクロ社の製品に似たラッセル音という意)と呼ばれることもあります。六〇~七五%の人に聞かれます。

 サルコイドーシスという病気は、やはり肺線維症を合併することが知られています。サルコイドーシスの場合の肺線維症は、クラックルが聞かれないことが特徴です。これは、肺内で肺線維症をおこす場所が、背中の表面に近い部位か、肺の深い部位かの違いによるものとされています。

 手や足の指先に、バチ状指と呼ばれる特徴的な変化が約六五%に見られます。男性に多く、病気の早期にあらわれることがわかっているので、肺線維症が疑われるときには私たちはまず指をていねいに見ることにしています。こちらが指摘するまで自分で指の変化に気づいている人はほとんどいません。「知らないものは見えない」という言葉を思いうかべる現象です。

 肺線維症が進行して重症になると、血液の運搬で肺と連結している心臓にも二次的に負担がかかってきます。肺動脈を流れる血圧が上昇する肺高血圧がみられるようになります。また頸の部分の静脈が、座って安静にした状態でも拡張してふくらんでいることがあります。このような状態では、心臓の聴診によって肺の負担がかなり強くなっており、足の甲の部分にむくみが出るようになってくることでもわかります。