アプタマー

 

 アプタマー(aptamer)とは,ラテン語で適合(fit)するという意味を持つ語(aptus)と,オリゴマーの接尾語(mer)を合成してつくられた用語である.特定の生体物質(とくにタンパク質)に特異的に結合して作用する小さなRNA分子を意味し, PCR法を利用して人工合成され選択される.その機能を理解するためにアプクマーの作製法を簡単に説明しよう.主要なトリックの1つは人工合成されたDNAをRNAに変換するためにT7RNAポリメラーゼという酵素を用いることにある.そのためにまずDNA合成機を用いて, T7RNAポリメラーゼの反応を開始させる機能を持つ,34塩基からなるT7プライマー(primer)と呼ばれる塩基配列と,任意の18塩基に挟まれた25塩基のランダムな塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを人工合成する.次にこれを鋳型にしてT7RNAポリメラーゼをはからかせ,ランダムなRNA分子集団を合成する.25塩基を挟めば巨大な数の組み合わせを持つオリゴヌクレオチドの集団が容易に合成できる.この分子集団を標的タンパク質を結合させた樹脂を詰めたガラス筒(カラムクロマト)を高塩濃度の条件下で通過させると,標的タンパク質に親和性のあるRNA分子種のみが樹脂に吸着される.次に吸着したRNA画分を低塩濃度の条件下で溶出させる.溶出したRNAを鋳型にし,18塩基部分をプライマーとして逆転写酵素をはたらかせてもう一度DNAに転換する.ここで1サイクルが終了する.あとはこのDNAをPCR法により再び増幅し,増幅されたDNAを用いてこのプロセスを何回も繰り返して特異的に結合するアプタマーを純化してゆく.

 

 これまでに色素やタンパク質などを標的にしたアプタマーがいくつか単離されている.医薬品としては血液凝固タンパク質であるトロンビンの阻害剤としてのアプタマーが開発されてきた. DNAをそのまま用いてこの過程を繰り返してもよさそうであるが,実際にはうまくゆかない.その理由はDNAは多様な立体構造をとれないためRNAほど高い確率でアプタマー分子が採取できないからである.