発がん遺伝子

 

 がん細胞(cancer cell)は特定の遺伝子の変異により細胞増殖の制御がはずれて無秩序に増殖するようになった異常細胞である.がん発生にかかおる遺伝子にはがん抑制遺伝子(suppressor oncogene,tumor suppressor gene)の2つに分類される.

 

 がん遺伝子とは正常の細胞では適度に発現されて正しく機能しているが,なんらかの変異原によってその遺伝子が変異すると細胞ががん化してしまうような遺伝子である.発がん性を示すがん遺伝子という概念は1970年代, RNAを遺伝↑青報として持つレトロウイルス(retrovirus)のうち,発がん性を持つRNA腫瘍ウイルスの研究の中からはじめて提唱された. RNA腫蕩ウイルスの基本型として潜伏期の長いリンパ性白血病ウイルス(LLV : lymphatic leukosis virus)があり,ゲノム上にウイルスの複製に必須な3つの遺伝子を持っている.一方,類似であるが感染後は数週間のうちに宿主にがんをつくるウイルスとして,ラウス肉腫ウイルス(RSV : Rous sarcoma virus)が知られていた. RSVとLLVのゲノムを比較したところ, RSVはもう1つ,遺伝子を持っていることが明らかにされ, srcがRSVに強い発がん性を与えていることが示された.この発見をきっかけにして,強い発がん能を持つ他のRNA腫瘍ウイルスのゲノム構造が次々に決定され,そこから新たな発がん性を示す遺伝子(がん遺伝子と総称された)が続々川司定されていった. 1980年代に入るとSrcタンパク質がチロシンキナーゼ活性を持つことが示されたのを皮切りに,他のがん遺伝子産物(タンパク質)の機能も次々に明らかにされてきた.

 

 一方,解析が進むにつれてがん遺伝子と相同な遺伝子が,魚類からヒトにいたるまでの種を超えた正常な細胞のゲノムにも存在することがわかってきた.さらに正常な細胞でもこれらのがん遺伝子は発現され,なんらかの機能を果たしていることも明らかにされてきた.そこでこれらRNA腫瘍ウイルスのがん遺伝子と細胞染色体上の相同ながん原遺伝子(protooncogene)を区別する。