毛包腫、多発性丘疹状毛包上皮腫

 

 毛包・脂腺・汗器官より生ずるもので、既述の母斑〕から後述の癌までの腫瘍をLever (1975)が分類している.この分類

にはまだ多少の改良の余地があるが〔例えば毛孔腫やケラトアカットーマが除外され
ている〕、きわめてクリアカットなので理解しやすい.
                〔A〕毛包起原性

 1.毛包腫trichofolliculoma (Pinkus-Sutton 1965〕

 顔面[一頭・頚]に単発する半球状、正常皮膚色の小結節で、しばしば中央が凹んで未熟な白い毛が生えている.組織学的に未熟な毛包構造が塊状・房状に集塊を成し、中央嚢腫構造あり、未熟な毛を容れることもある.まれ.

   毛孔拡大腫dilated pore 〔Winer 1954〕:成人男子顔面・胸部に単発し、巨大黒色面皰を形成.毛漏斗部が広く開口し、深部で嚢腫状に広がり、壁より外方に多くの表皮突起様増殖を示す.漏斗部良性腫瘍.

 毛鞘棘細胞腫pilar sheath acanthoma 〔Mehreg an- B rownstein 1954〕:中年以降の顔面とくに上口唇に好発する径0.5~亅cmの中央陥凹した小結節.陥凹部には角化と表皮肥厚あり、深部の嚢腫壁より放射状に突起を出す.漏斗部腫瘍であるが、一部毛包全構造への分化を示す.

   sebaceous trichofoll iculoma[Plewig 1980]:脂腺増生を伴った毛包腫の一亜型.

  中央嚢状毛包より放射状に成熟脂腺.

2.多発性丘疹状毛包上皮腫trichoepithelioma papillosum multipleχ 〔Jarisch〕

 〔同義語〕嚢腫状腺様上皮腫epithelioma adenoides cysticum [Brooke 1892〕

 〔症状〕粟粒~豌豆大、半球状の、ときに透過性に見える硬い丘疹で、顔面正中部

〔鼻根・眼瞼内側・鼻唇溝・口囲〕に対称性に多発、その他、被髪頭部・項頚部・体幹にも生ずる.まれに潰瘍化.思春期に初発し徐々に増数、女子にやや多い.常染色体性優性遺伝で家族内発生あり.まれに皮膚萎縮・てんかん・舌海綿状血管腫・円柱腫・表皮母斑などを合併.

 〔組織所見〕角質嚢腫を有する、基底細胞腫様細胞から成る腫瘍塊が集族し、この腫瘍塊が主体を成して基底細胞腫そのものにみえるものから、分化が進んで角質嚢腫が多く、不完全ながら毛乳頭の形成のみられるものまである.ときに周囲に異物反応や石灰沈着.

   単発性毛包上皮腫:成人以降に発し顔に多く、頭・体幹・四肢にも生ずる.遺伝(-).角質嚢腫・不完全毛乳頭が多い.角化性基底細胞腫に近い.

 抗ケラチン・モロクロナル抗体による付属器腫瘍の診断〔伊藤1986〕:抗毛ケラチンMoAb〔HKN-2、 HKN-4、 HKN-5、 HKN-6、 HKN-7]、抗単層上皮型ケラチンMoAb〔RGE53〕および抗重層上皮型ケラチンMOAb〔RKSE60〕による免疫組織化学法 により、腫瘍の起原が確定されるようになってきた.

 desmoplastic trichoepithelioma [Brownstein-Shapiro 1977〕:中央がわずかに陥凹し、辺縁が堤防状に隆起し、稗粒腫様白色小丘疹が環状に配列する.真皮に大小の多数の角質嚢腫・基底細胞様細胞の索状配列・結合組織の増生をみる.