悪性黒色腫: メラノサイトの悪性腫瘍

 

 〔発生母地〕

 1)正常でメラノサイトの存在する部位〔de novo発生〕:皮膚〔表皮基底層・真皮・毛母上半〕、脳軟膜、眼球脈絡膜。

 2)色素l生母斑:その境界部母斑巣より。 MM に先行しだ色素斑”が色素l生母斑であったとの確認は実際上きわめてむつかしく、MM初期像〔MM in situ、 premalignant pagetoid melanosis〕やLMである可能性も高い。獣皮様母斑、 dysplastic nevus〔p。 357〕由来のものは確認は容易である。

 3)悪性黒子

 4)色素性乾皮症

 誘因:外傷・刺激〔切除・外傷・ドライアイス・注射・外傷性爪甲剥離・打撲・吸出膏・灸・靴ずれ・鶏眼切除・掻破・凍傷・穿孔傷・X線皮膚・熱傷瘢痕・日光障害〕・妊娠。

 人種差が大であり、白人に最も多く、黄色人種には少なく、黒人にはまれ。

 〔部位〕下肢特に足底に多く、頭顔頚部がこれに次ぎ、その他、眼球・口腔・脳膜に生ずる。

 〔症状〕黒色腫瘍で、色調は濃黒~青黒~赤黒色、多くは半球状~茸状、中央が潰瘍化し黒色痂皮を被り、易出血性。境界はほぼ明瞭であるが、周囲に色素がしみ出したようにみえることもある。赤味が強く肉芽腫状の像を示すものもある。しばしば周囲に散在性の小結節を生ずる〔衛星病巣(satellite lesions)〕。リンパ節転移をきたしやすく、また血行性に全身に転移して死亡する。

 〔病型分類〕Clark (1979)分類。

 1)悪性黒子黒色腫

 悪性黒子の局面上に丘疹・結節ないし潰瘍として生ずる。顔面等日光裸露部に生じ比較的予後は良い。LMのradial growth がvertical growth に移行し、異型性が高まり、多少のリンパ球浸潤を伴う。

 2)表在性拡大型黒色腫superficial spreading melanoma 〔SSM〕

 扁平隆起性斑状に拡大、色調は不均一で表面は軽度に凹凸を示し、部分的に自然退縮がみられる。初めは水平方向浸潤で異型メラノサイトが境界部からやや上層に胞巣をなし(radial growth phase)、やがて垂直方向にびまん性または胞巣を形成して侵入してゆく(vertical growth phase)。表皮内へも胞巣の上昇をみる。本型の前段階としてpagetoid melanoma in situ 〔SSM in situ〕といい、比較的小さい色素斑で、わずかに隆起し、不規則から弧状の境界を有し、色調も褐・黒・ピンク・青・灰色と不均一な局面が考えられている。
 3)結節型黒色腫nodular melanoma[NM]〔付図26-23〕

 腫瘤状~茸状隆起を示す。潰瘍化する傾向も強い。一様に黒褐色であるが、メラニンの色が全くなく紅色調を呈し、肉芽腫のようにみえることも少なくない〔無色紊院黒色腫amelanotic melanoma〕。比較的経過が早く、予後もあまり良くない。

 4)末端部黒子型黒色腫acral lentiginous melanoma

[ALM]=PSM melanoma 〔palmar-plat)  四肢末端〔足底〕・爪・粘膜に発し比較的日本人に多い。褐色調の斑として発し、次第に不規則に拡大するとともに色調も褐色から黒色まで不均一となる。部分的退縮もときにみられる。比較的早く真皮内へ浸潤してゆき、結節または潰瘍を形成する。爪黒色腫ungual melanoma では主病巣の周囲に不規則な褐~黒褐色小色素斑が散在する〔Hutchinson's sign〕。初期は基底層におけるメラノサイトの増数とメラニンの増量であるが、次第にメラノサイトの異型性が高まり、基底層部に連続性に連なり、とくに表皮突起尖端部で胞巣を形成、さらに進んで表皮上層・角層にも上昇、真皮にはリンパ球浸潤・メラノファージ・線維化がみられる。予後は悪い。

   悪性青色母斑malignant blue nevus :正常皮膚または細胞性青色母斑から発し、真皮~皮下にメラニンを含む双極性紡錘形細胞か増殖する。

   malignant melanoma of soft parts : 青成年の四肢〔足・踵〕の皮下に生ずる紡錘形腫瘍細胞の塊状・束状の増殖。メラニンメラニン染色で確認されることが多い。経過は長いが予後は不良。

 〔組織所見〕①異型性〔大型不整形核・豊富なクロマチン・核小体・ミトーゼ〕の高い腫瘍細胞が境界部より真皮に向かって増殖、②腫瘍巣は比較的大きく不規則に増殖、③メラニンを含有し、チロジナーセ・ドーパ反応陽性、④腫瘍細胞は大小不同、多形で、融合して巨細胞を形成、⑤上昇して表皮〔ときに角層まで〕中に散在性・集簇性にみられ〔散弾状buckshot scatter〕、⑥水平に周囲表皮内および附属器上皮にそって下方に異型メラノサイトが散在〔pagetoid〕、⑦リンパ球を主体とする細胞浸潤を伴い、またメラノファージがみられる。腫瘍細胞は紡錘形(spindle cell type)、小円形細胞型(small cell type)、類上皮細胞型(epithelioid cell type)と分けられる。

 深達度によりレベルを1〔表皮内〕・11[乳頭層]・Ⅲ〔網状層〕・IV〔網状層深層〕・V〔皮下組織〕と分け、後者ほど予後は悪い[C]ark]969]。 Breslow (1970)は組織をマイクロメータで測り、顆粒層より最深部腫瘍部までの長さを tumor thicknessとして、数値で示すことにしている。

 〔診断〕直接腫瘍にメスを入れる生検は禁忌。熟練した祝診に最も頼るべきである。あくまで組織学的診断を求めるなら、幅広くかつ深く健康組織を含めて広範囲に切除して標本を作る。メラニン尿の証明も一助となるが、これは辿常広範な転移を生じたさいに初めて陽性となる。

 〔鑑別診断〕黒子、ブロッホ良性非母斑性黒色上皮腫、色素性基底細胞腫、若年性黒色腫、毛細血管拡張性肉芽腫、有棘細胞癌、疣贅、血管肉腫、組織球腫、硬性線維腫、血腫、色素性母斑、グロームス腫瘍など。

 〔予後〕皮膚腫瘍中最も悪性で予後が悪い。まれに自然退縮。病型および初回の治療方法が予後にきわめて関係する。臨床的にstageを1〔原発巣のみ〕、2〔所属リンパ節およびそれまでのリンパ管内転移、衛星病巣〕、3〔所属リンパ節に接して遠位のリンパ節転移〕、4〔遠隔転移〕と分かち、後者ほど予後が悪い。部位別には末端部(acral)及び上背・上腕側後面・後頚側頚・後頭部〔upper back、 posterolateral upper arm、 posterior and lateral neck or posterior scalp-BANS〕に占位するものが他部位のものに比して悪い〔Sober 1983〕。

 〔自然退縮〕原発巣の部分的消退現象はまれではなく[13。8% McGovern]、とくにSSMとALMにみられる。その中央部が退色して灰白色、多少瘢痕状となり組織学的に腫瘍細胞の変性・消失、リンパ球浸潤、メラノファージ・線維化をみる。完全消退もあり、このときSutton現象、遠隔部の白斑発生などがみられる。

 〔治療〕

 1)予防処置と早期発見:5年治癒率をみると、転移なきもの〔第1期〕は40~50%、転移あるもの〔第Ⅱ期以降〕は6~8%となっており、転移以前に発見処理することの重要性が良くわかる。皮膚に「黒色腫瘍」を見た時には、気軽に電気焼灼・腐蝕・単純切除などせず、一度は本症ではないかを考えてみる。足底の色素性母斑はde novoに比して先行病変となる率は高くないが、 dysplastic nevusやpremalignant pagetoid melanosis のこともあり、心配しているより切除しておくのも一法である。

 


Side Memo

 5-S・CD (5-S-cysteinyIdopa)による悪性黒色腫の診断〔森嶋1989〕:①病巣表面一割面からのスタンプ蛍光法〔術前・術中の迅速診断〕、②病巣中の高値C〉lOOng/mg〕〔他の色素性腫瘍・母斑より有意に高値〕。③尿中値〔病勢と平行〕。④胸一腹水中値〔転移の証明〕。⑤穿刺吸引蛍光法〔早期発見〕。

 細胞核DNA量も色素性腫瘍の悪性度と相関を示し、診断に有用とされ〔大塚1988]、fas癌遺伝子発現もメラノサイトの分化と関連があるとされている。本症の疑いがあるなら、生検は行わず、次のいずれかの治療を行う。

 2)手術療法:広範な切除とその修復。

 3)放射線療法:軟X線・電子線でびらん反応まで照射〔1~2万R〕、ひきつづき広範囲に切除する〔放射線十手術療法〕、粒子線〔速中性子・陽子線など〕ではより少量で効果あり。

 4)抗腫瘤剤:DTIC〔dimethyl triazeno imidazole carboxaroide]、 BCNU[bischloroethyl nitrosourea]、 CCNU〔chloroethyl cycloheχyl nitrosourea〕、 methyl CCNU、 ACNU〔amino一methyl-pyrimidinyl methyl-chloroethyl nitrosourea hydrochloric、 Mitomycin C、 vincristine、 vinblastine、 hydroxyureaなど。このうちDTICが最も用いられ、 DAY〔DTIC 100~200 mg、 5日、 ACNUlOOmg、 1回、VCR 1 mg l回〕を1~5クール行うことが多い。

 5)免疫療法:BCG、 BCG-CWS、ピシバニール、レバミゾール、 PSK、インターフェロンなど。