体腔鏡手術

 

 体腔鏡手術も導入されてきた。先に述べた内視鏡手術は、身体の中の食道とか大腸などの管や胃や膀胱など袋の部分に内視鏡を挿入して目標の病巣を切除する方法である。一方、体腔鏡手術はおもに胸腔や腹腔を対象として行なわれる新しい方法である。胸やお腹に三センチほどの小切開を数力所おいて、そこから内視鏡、小さなハサミやピソセッい、電気メスやホッチキスのような特別に工夫された手術道具を挿入してこれらを巧みに操作することにより、小さいがんを切除する方法である。内視鏡によって拡大された患部をテレビモニターの上に映し出し、それを別な小切開創から挿入した三十-四十センチの長いハサミやピンセットなどの道具を駆使して、モニター上で視ながら、いわば遠隔操作のような形で切除する。

 腹腔鏡手術によって、胆嚢や胃、大腸、リンパ節の手術が行なわれる。胸腔鏡手術によって 肺やリンパ節の手術が行なわれる。手術の感覚は開放手術とずいぶん異なり、習熟するには独特の訓練が必要であるが、この手術を受けた後の患者さんの回復は驚くほど早い。従来の開胸手術でがんの切除を行なうと約四十センチほどの大きな傷が背中に残り、術後、傷の痛みが消え、上肢の動きが回復するまでには二ヵ月の日時を要する。一方、胸腔鏡手術の場合は一週間ほどで日常生活にもどることができる。こうした手術法が開発されてきたのは、早い段階でがんをみつけることができた場合には、なるべく後遺症を少なく治そうとする努力のあらわれである。同時に、在院日数を短縮しよう、といった医療経済的視点も背景にある。こうした手術は一括して最小侵襲手術とよばれてにいる。

 このようにがんの手術療法は標準的手術、拡大手術、最小侵襲手術という三つの方向に進みつつありがんの進み具合と性質を考えながら、その患者さんに最適の手術法が選ばれる、いわばオーダーメイドの手術が行なわれる時代を迎えた、といえる。