癌の画像診断:MRcP

診断の方法

 がんの診断は画像診断、腫瘍マーカーによる診断、病理診断に大別することができる。これらの方法を組み合わせることによって、どの臓器に、どんな性質のがんが、どのくらい進んでいるがを精密に診断することになる。がんばそれを抱える一人ひとりの患者さんで違いがあり、個性豊かな病気である。がんの個性の診断はDNA遺伝子変化の診断により、これからますます重要になることは前にも述べたとおりである。診断の現状を代表的な進歩をとりあげてお示しする。なお、これから述べる検査法の進歩ががんの診断を精密なものにしたことは間違いないが、患者さんの訴えをよく聴き、全身を注意深く診察する、という医療の原点はがんの診断を進める上でもことのほか大切であると、私どもは考える。

 画像診断

 がんの画像診断は、ある臓器に発見されたがんがどのくらいの大きさで、どんな形をしているのがどの程度周囲に浸潤しているのがいないのが隣りの臓器との関係、血管や神経との位置関係、などを決めることが中心となる。さらにがんが発生した場所、つまり原発巣以外にリンパ節転移や他の臓器への転移の有無も調べることになる。

 このような情報を集めて、臨床的にがんがどの病期にあるかを診断する場合の国際的な約束ごとを、TNM分類とよんでいる。Tは原発巣の有無、Mは転移(Metastasis)の有無を表し、Tは014の五段階で、Nはo-3の四段階で、Mは011の二段階で表示される。その組合せからたとえば早期がんからT3N2M1といった進行がんの病期が表現される。この表記法は世界中のがんに関わる臨床医のいわば共通言語に相当し、国際対がん連合で作られ、数年ごとに改訂が加えられっつ使われてしる。国立がんセンターでは遺伝子変化の重要性にがんがみ、遺伝子のGを加えたTNMIG分類を考えている。これら三つあるいは四つの因子の組合せでがんの進み具食がわかるが、それを病期I-Ⅳとして分類することもよく行なわれる。

 がんの画像診断の内容はx線撮影(単純x線撮影、cT検査、造影検査、シンチグラムなど)、超音波検査MRI(Magnetic Resonance Imaging)としって強い磁場の中に身体を置くと、細胞内の電子が一定の配列をとり、これが元にもどる時に発する電磁波をとらえて画像化する方法、内視鏡検査などが主な検査である。

 CT検査は最近はヘリカルCTといって、患者さんが一回呼吸を停止している間に肺とか腹部など、目標とする部位の周囲をX線管球がグルグル回転し、その間に患者さんを検査台ごとスライドさせてすき間なく対象臓器の全体を検査する方法が開発され、小さい肺がんなどの発見に威力を発揮しはじめている(図2)。

 造影検査は、胃や大腸の検査には。バリウムという白い造影剤に空気を混ぜて管腔を満たし、胃や大腸の内側を広げて粘膜のしわを伸ばし、早期のがんを発見する二重造影法が使われる。胃がんが多いわが国で開発された、世界に誇りうる診断技術である。上手なAが撮ると、一センチ以下の早期胃がんでもほとんど芸術的ともいえる美しさで病巣の様子がフ″ルム上に再現される。

 尿路の撮影などには水溶性のヨしド性造影剤を静脈内に注射し、しばらくたって尿中に排泄されてきた造影剤によって腎盂、尿管、膀胱の内腔を描き出す。また血管撮影といって、動脈や静脈内に直接ヨドド性の造影剤を注入し、注入しながら脳とが肝臓とか腎臓などを連続的に撮影することによって、腫瘍への血管分布の様子を描き出すこともできる。最近はMRIによって、造影剤を使わないで血管の様子を描き出す方法も開発されてきた。血管撮影は患者さ んの負担の大きい検査だし、時には造影剤に過敏症を示す人もあり、こうした新しい検査法の登場は喜ばしい。

 CTやMRIの画像を構成している数値情報をコンピュータ1処理することによって、三次元画像を再構成することも可能になってきた。画像処理のスピしドがもっと速まって、手術方針の決定や放射線治療計画をたてるのに日常的に使われる日も遠くなにいだろう。

 シンチグラムはアイソトープを印として付けた薬を静脈内に注射すると、しばらくしてがんの部分や転移巣にその薬が集まってくるので、そのアイソトトフの集積の様子を特殊なカメラで全身を撮影することによって、苦痛を伴わないで患部の描出ができる。

 最近の進化したMRIの機械を使うと、胆汁、膵液、尿など水分のある場所の信号を強調することによって、造影剤を使わないで特定の管腔内の様千加描出できるようになった。MRcP(Magnetic Resonance Choledocho Pancreatography)と呼ばれている方法は、胆道や胆管、膵管を描き出す新しい方法として、膵がんなどの早期診断の重要な手法になる可能性があり、現在熱心に研究が進められつつある。