ジャンクだらけのヒトの遺伝子

 

 ヒトのDNA塩基配列を数多く決定してゆくにつれ,一見して無意味と思われる単純な繰り返し配列がいくつもみつかってきた.現在では30億塩基対もあるヒトのゲノムDNAのうち, mRNAや機能を持つRNAをコードしているいわゆる遺伝子として使われている部分はわずかに10%程度と考えられている.残りのおよそ9割は役割がはっきりしないDNA領域であり,そのかなりの部分か反復配列と呼ばれる一定の塩基配列が数多く繰り返した特異な塩基配列群として見いたされる.反復配列は直列型反復配列と分散型反復配列の2つに分類される

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 直列型反復配列とは同じ塩基配列が連続して現れるタイプの繰り返し構造である.たとえばヒトのⅢ型サテライトDNAと呼ばれるものはATTCという塩基配列とそれが少し変化した塩基配列が高頻度で出現する172塩基対が1つの単位となって連続して繰り返し現れる.このタイプの反復配列は塩基配列や反復単位のサイズ,あるいは反復頻度について生物種間にほとんど共通陸が見いたされない.このことは反復自体には積極的な生理的機能加担わされていないことを意味している.さらにヒトのDNAの中にみつかったミニサテライトDNAは1つの反復単位が約30塩基対で反復数も10~200回程度であるが,個人間でさえ反復単位や反復数が大きく異なるため個人の識別に利用されている(100頁参照).他方,分散型反復配列は染色体に分散して多数存在するもので,反復単位が500塩基対以下のものはサイン(SINE),それ以上のものはライン(LINE)と呼ばれている.