科学論文とは何か

 


 科学論文すべてに、肯定的に評価できる部分と、否定的に批判できる部分があります。肯定的な評価が少しもできない、取り柄が全く存在しない論文はほとんどありませんし、逆に、どんなに優れた論文と思えても、目を皿のようにして読み込めば問題点、瑕疵を見いだすことはそんなに難しいことではありません。自分の学説に合わなければ、坊主憎けりや袈裟まで憎いで、内容は申し分ないのに、「こんな三流雑誌に載っている論文だからダメ」みたいに、ほとんど八つ当たりのように論文を否定することもできます(こういうタイプの批判はしばしばなされます)。逆に、自分の学説に合致している論文であれば、あばたもえくぼで、全面的に肯定的な評価をすることができるのです。

 よく医学の世界で「いい論文」とされるのはランダム化比較試験、かみ砕いてしばしば「くじ引き試験」と一般に紹介されるものです。三だ論法の「使った、治った、効いた」という論拠の未熟さを克服するため、「使わなかった」場合と比較してみて、本当にその治療法が有効であったのか(あるいは治療法でなくても、がん検診でも予防接種でも、何でもいいです)、吟味するのです。

 ともすると、「くじ引き試験が価値のすべて」のように言われがちです。前述の岡田正彦氏や近藤誡氏も、しばしば自分の意見を通寸ために「それにはくじ引き試験がない」といって批判します。しかし、本当にそうなのでしょうか。

感染症は実在しない(構造構成的感染症学)』岩田健太郎著より